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玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~

アフターコロナのインバウンドに向けて、今もう一度考えおきたい中国人富裕層って、どんな層?

年齢を重ねるにつれ、時間の流れが早く感じるのは本当のようです。(実感!)誰にとっても心に刻む年になってしまった2020年も、残り2ヶ月となりました。私も観光に携わる人間として、嘆きたくなる時も多くありましたが、嘆いてばかりよりもアフターコロナを見据えて、今、何ができるかを日々考えています。

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今年の10月1日~10月8日は中国の国慶節と中秋節が重なって、コロナ収束後の初大型連休として、中国の観光関係者からもたくさんの関心を集めました。1週間の休みで中国国内の旅行者が、昨年の7.82億人より少ないですが、延べ6.18億人に達し、国内旅行の回復への期待感が高まっていることでしょう。携程(トリップ)とSTR等の国慶節連休中の観光動向に関連する報告書から、今年の中国の国内旅行において以下2点の変化が見られました。

  1. 一つの観光地で連泊する滞在型旅行者が増えました。旅行者が複数の観光地を回ることよりも、一つの都市や観光地で3~5日間長く滞在し、ゆっくり観光しながら、ローカル住民の生活、ローカルグルメ等を楽しもうといった変化が見られました。行先としては海南島省三亜(中国における日本の沖縄のような島)や上海、広州、成都、重慶等の東部や西部にある観光都市の人気が高いです。
  2. 高価格のホテルが高い人気を獲得しました。例えば三亜の場合、1泊2万円以上のリゾートホテルが人気で、都市部の場合、奢華(スーパーハイエンド)のホテルは前年同期より5%増、超高端(超高級)のホテルは3%増で、中間レベルやビジネスホテルは前年同期より7%減となりました。アフターコロナの旅行で、高級ホテルの衛生面への安心感が高いことも人気の一つと考えられます。
    ※ホテルの格付けは国によって異なりますが、奢華と超高端ホテルは一般的に言われる5つ星以上(アマン/ペニンシュラ/リージェント等高級路線)、1泊25,000円以上のイメージです。

一方で、今年5月に開催された全国人民代表大会(全人代)閉幕後の記者会見で、李克強総理が「中国はまだ発展途上国であり、6億人の中国人の平均月収は1000元(約16,000円)前後だ」という発言もまだ記憶に新しいことです。近年、訪日中国人旅行者が急増し、爆買する中国人もいれば、李総理の発言の通り、中低収入の中国人もまだまだ多く、中国はまだ発展途上国である一面も、残していることを覚えておいていただきたいです。

アフターコロナを見据えた中国人旅行者の誘客再開に向けて、「中国」、「中国人」、「訪日中国人旅行者」、「中国人富裕層」を一括りせず、今一度、我々にとって必要とされる中国人旅行者、中国マーケットは何か?を、収入面から考えていきたいと思います。「中国」、「中国人」、「訪日中国人旅行者」に関する調査や記事が多くある中、ここでは、「中国人富裕層」について特筆してまいります。

比較として、まずは日本人の収入現状をみていきましょう。厚生労働省に掲載されている「2019年国民生活基礎調査の概況」の所得の分布状況を見ますと、日本人平均所得の中央値は437万円で、所得平均金額は552万3千円以下の割合は61.1%となっています。所得が1千万円以上の割合は12.1%で、総人口1億2616万人(2019年9月)から換算すると荒いですが、1500万人強となります。

次に中国人の収入はどのようになっているかを見ていきましょう。全国、都市部、農村部における一人当たり可処分所得を5つのランクに分けて、比較表(表1)を作成しました。全体において都市部の可処分所得は、農村部の3倍くらいになっています。2018年全国一人当たり平均可処分所得において、高収入者は1,101,976円で、低収入者の100,472円の約11倍となり、2013年と比べ、高収入者と低収入者の可処分所得の差が拡大しています。2018年都市部一人当たり平均可処分所得において、高収入者は1,324,551円で、低収入者の224,436円の約6倍となり、2013年と比べ、都市部でも高収入者と低収入者の可処分所得の差が拡大していることがわかります。

表1:中国人一人当たり年間可処分所得の変化

中国人一人当たり年間可処分所得の変化

出典:中国国家統計局より筆者が作成

また、中国国家統計局年鑑(2019)によると、非労働人口等を除いて、人口の9割の中国人が年収6万元以下(約93万6000円以下)となります。現在、訪日中国人観光ビザの収入制限は年収6万元以上を満たす人口は1億5110万人で、全体の1割強となります(図1)。

中国人の年収と階層人口の割合

出典:中国国家統計局「中国統計年鑑(2019)」より筆者作成

図1:中国人の年収と階層人口の割合

表1に合わせ、2019年の訪日中国人一人当たり旅行支出は212,810円だったことから、中国の農村部より都市部の「中間」、「中間以上」、「高収入」は訪日有望ターゲットであり、うち、「中間以上」、「高収入」は訪日リピーターになる可能性がある、重点ターゲット層として考えて良いでしょう。しかしながら、これらの層は≠「中国人富裕層」です。

中国人富裕層というのは、大手商業銀行「招商銀行」のデータがよく使われていますが、主な居住用不動産、収集品、消費財、および耐久消費財を除き、投資可能資産が1000万元以上(約1億5600万円以上)の中国人を指しています。2008年の北京オリンピック後に毎年増加し、2018年では197万人に達し、2019年では220万人となりました(推定値)。

中国人富裕層投資可能資産及びその人数

出典:招商銀行&貝恩公司2019年「中国私人財富報告」より作成

図2:中国人富裕層投資可能資産及びその人数

貧富の差はどの国でも存在しており、驚くことでもありませんが、中国人富裕層マーケットを考える上で、

1) 中国人富裕層(投資可能資産1億5600万円以上)
2) 訪日旅行の富裕層(年間可処分所得100万円以上)

という2つの視点から考え、誘致の判断を行うことが前提であり、不可欠です。アフターコロナを見据えたインバウンドの反転攻勢において、「昨年までと同じでいいこと」と、「変えなければならないこと」は何かを明確にし、「中国人富裕層」、外国人富裕層誘致を戦略的に考え、そして具体的に何をするのかが重要です。