シェア5割でも廃業の危機、残したい三味線の音

三味線の生産の国内シェア5~6割を占める大手「東京和楽器」が、今年5月に廃業の危機に立たされました。コロナ禍により、祭り・芸能などのイベントが数多く中止になったことと関係があるのでしょうか。和楽器業界で何が起きていたのでしょうか。(羽田野)

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三味線は歌舞伎の囃子方や落語の寄囃子など、日本の伝統文化に欠かせない音です。津軽三味線は、戦後の民謡ブームにより演奏楽器としても知名度を得てきましたが、最近は若手演奏家の伝統芸能の枠を超えた活躍や、和楽器と洋楽器を融合させたハイブリッドロックエンタテイメントバンド「和楽器バンド」が、音声合成技術であるボーカロイドの楽曲をカバーしたことで、現代の感性にマッチした親しみやすい一面も見えてきました。また、津軽三味線を題材とした漫画が月刊雑誌で連載され、2021年4月にはテレビアニメ化も決定しているなど、音色だけでなく演奏する楽器そのものとしても若い世代への認知が高まっています。

一方、三味線の生産の国内シェア5~6割を占める大手「東京和楽器」が、今年5月に廃業の危機に立たされました。コロナ禍により、祭り・芸能などのイベントが数多く中止になったことと関係があるのでしょうか。和楽器業界で何が起きていたのでしょうか。

最も大きな課題として挙げられるのは、演奏人口が伸びていないことです。2018年4月発行『邦楽ジャーナル』375号によると、1970年の三味線の販売数は18,000棹でしたが、2017年には3,400棹となり、約5分の1に減少していました。演奏人口が伸びにくい一因として、三味線自体が“誰でも手軽に取り組める音楽”とは言えないことが考えられます。

その理由の一つは楽器を買うまでのハードルの高さです。三味線は、使用した材木の種類・質によって価格が大きく変動します。一般的な価格帯が多くの消費者には伝わりにくい現状があります。さらに三味線に用いる紅木や象牙、犬・猫の皮や鼈甲など、輸出規制があるものや材料不足であるものが多く、調達の難しさや価格の高騰にもつながっています。代替品も模索されてきましたが、音色という観点で十分とは言えません。一般的な価格が知られていないこともあり、高価な印象となってしまい “はじめる前から断念するもの”になっている可能性があります。もう一つの理由が習うハードルです。三味線の楽曲は、多くが楽譜化されていません。口伝で伝わってきたため、津軽三味線では演奏者の個性や、伝わった地域ならではのアレンジなど、柔軟さと即興性による魅力が生まれてきました。しかし、逆に言うと指導なしに“一人では始めにくい”とも言えます。

新型コロナの流行により、仕事や日常生活の様々な行為が“オンライン”で行われるようになりました。これまで対面で行っていた習い事やセミナーのオンライン実施、おうち時間の充実のため新たなオンラインレッスンをはじめる人も増えています。ウクレレのオンラインレッスンが盛況、通販で伸びているとい話も耳にします。三味線も最近はオンラインのレッスンがあり、今後、和楽器を習うハードルが今後下がっていくかもしれません。

現在、和楽器バンドにより、コロナ禍で苦境に立つ日本の伝統芸能文化を支える活動 “たる募金”プロジェクトが実施されています。第1弾としてライブの収益の一部の寄付、ライブやオンラインサイトで募金を行い、「東京和楽器」を支援しました。現在は第2弾として「福山琴」の支援活動を行なっています。「東京和楽器」の大瀧勝弘代表は、「支援の手もあり、来年も(会社を)続けていこう」と語ります。

三味線は舞台芸能の場だけでなく、お祭りや生業、四季の変化、暮らしとともに紡がれてきた音楽です。こうした日本の音色は、アフターコロナでも暮らしの身近に残り続けてほしいものです。