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FRE~EDO~M ~3つの大陸で育まれた自由な視点から’今’をみる~

David the Covid(新型コロナウイルス)の挑戦を受けるGoliath(観光業界)

※David(ダビデ)とGoliath(ゴリアテ)の戦いは、旧約聖書の「第一サムエル記」第17章に記されており、羊飼いの少年ダビデが巨人兵士であるゴリアテを倒すという物語。「ジャイアント・キリング」という言葉は、この話が由来と言われています。

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200年以上前に3つの信念「Liberté, égalité, fraternité(自由、平等、友愛)」を掲げて新たな社会システムの構築に成功したフランスは、世界の観光分野における牽引役となっています。2019年には過去最高となる9,000万人の観光客が世界各地から訪れ、GDPに占める観光産業の割合は8%を占めるなど、観光はフランスにおける重要な産業となっています。

これまで順調に推移してきたフランスの観光ですが、新型コロナウイルスの影響により、2020年の最初の7ヶ月間において、国際観光収入はほぼ半分に落ち込みました。フランス政府はロックダウンをはじめとする各種規制を講じるなど、目に見えないDavid(新型コロナウイルス)に対抗しました。その結果、2020年5月に規制の解除が始まり、国内観光も再開されることとなりました。7~8月にはフランス人の53%がバカンスに出かけ、そのうち94%がフランス国内にて宿泊を行いました。年末に行われた推計によると、フランスの観光収入は前年の60%~65%となっており、近隣のヨーロッパ諸国よりもはるかに良い結果となっています。その要因として、「今年の夏、私はフランスを訪れます」という積極的なキャンペーンや、自然・風景・体験などのフランスの豊富な観光資源とサービスの提供により、ベルギー・オランダ・ドイツなどの近隣諸国からの観光客が増加したことが考えられます。

フランス政府は、新型コロナウイルス発生以前から、Le Comité de filière tourisme (CFT)と呼ばれる観光業界組織が「雇用とトレーニング」、「持続可能な開発」、「デジタル化」、「規制と競争力」の4つのテーマに取り組んできました。CFTは、新型コロナウイルスがもたらしたあらゆる課題を分析し、ウェビナーや調査を実施しました。また、フランス観光開発機構及びパリ観光局による毎月の指標の発表、「今年はフランスを訪れよう」キャンペーンの告知、観光施設やサービスにおけるインタラクティブな交流などさまざまなツールを立ち上げており、1,000万人以上の人々に情報を提供しています。フランス政府は2020年5月に、観光産業の復興を目指し、180億ユーロもの予算を計上しました。その内容は、13億ユーロの投資ファンドの設立、地方自治体や民間企業の雇用改善のための2,300万ユーロの支援などです。2020年9月には、持続可能な観光のためのファンドも設立し、5,000万ユーロが割り当てられました。

次に、2020年1月3日(金)にDavid(新型コロナウイルス)がフランスで観測されて以降、どのように広がっていったのか、確認してみましょう。2021年3月8日(月)の国際女性デーまでの新型コロナウイルスの患者数は3,909,560人、死亡者数は88,933人、回復者数は266,096人でした。フランスの感染者数は世界第6位となっています。フランスでは、2020年春に行われた1回目のロックダウンに続き、現在は2回目のロックダウンが行われています。今回のロックダウンは昨年秋から実施されており、国の大部分が対象となっています。イギリス型のDavid(新型コロナウイルス)が国の北部に広がっており、午後6時から翌日午前6時までは正当な理由なく外出できないという規制が敷かれています。2021年3月6日(土)の週末には、ニースやダンケルクの港に加えて、パ・ド・カレの住民も外出できなくなりました。現在、340万人の国民が少なくとも1回のワクチン接種を受けており、政府は2021年夏までに3,000万人にワクチン接種を行うと発表しています。

フランスは、国土面積が世界で49番目、人口では22番目の国です。これまでに素晴らしい観光資源の開発やサービスの提供を行い、世界の観光分野のトップに君臨しています。一方、日本はコロナ禍前の5年間において、海外からの観光客数が驚異的に増加しています。日本の観光資源やサービスのレベルは高く、フランスと比較しても恥じる必要はありません。日本の観光は、日本経済の中で重要な役割を果たしています。

日本政府は、海外旅行が再開されたときに備えて、観光産業の復興に向けた計画を検討すべきです。今がちょうど良いタイミングだと思います。

(※このコラムは3月上旬に書かれたものです)