連載 新しい観光の芽 探検隊🔍~5年先の旅のカタチを探る~

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新しい観光の芽 探検隊🔍~5年先の旅のカタチを探る~

【第2回】カタチ研究所・今谷秀和さんに聞く、5年先の旅のカタチ

デザイン志向を基に活躍する今谷さんが、未来の自分に贈る「プレゼント」とは?

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本コラムでは、今後の観光や旅行のトレンドの把握と変化の兆し(=新しい観光の芽)を捉えることを目的に、旅行分野にとどまらない、様々な分野の第一人者への「探検記(=インタビューの様子)」をお届けします。
今回は、大丸松坂屋百貨店「未来定番研究所」の元所長で、飲食系の商業空間デザインやインターネット黎明期におけるデジタルメディア戦略など、デジタルとリアルの垣根を超えて「デザイン志向」を基に活躍される今谷秀和さんにお話を伺いました。


Profile

今谷 秀和 さん

今谷 秀和 さん

 
株式会社乃村工藝社に入社後、飲食系の商業空間デザインに携わる。伊藤忠商事株式会社に転職し、住宅・ショッピングセンターの開発事業に携わり、その後株式会社電通に空間プロデューサーとして入社。インターネット黎明期よりネット広告などのデジタルメディア戦略を担当。2015年に株式会社大丸松坂屋百貨店に入社後、新しいマーケティング部門の必要性を提案し、「未来定番研究所」を設立。現在は、企画・設計事務所「カタチ研究所」と、事務所内でシェアキッチンの運営を行う。

インターネットとリアルは、相反するものではなく、「組み合わせて」考える

探検隊

今谷さんは、インターネット黎明期から、長くデジタル戦略分野でも活躍されています。インターネットがある中で、そこにしかない「リアル」の価値はどのようにお考えですか?

今谷さん

インターネット黎明期に「見たい時に見たいものが見られる」といった特徴に興味を持った、というのはあるんですが、ここまできたらもはや必需品であって、使うことが前提になりましたよね。でもやっぱり決定的に違うのは手触りとか匂い、空間。人との付き合いでも、オンライン会議の画面上で顔の表情を読み取ることはできるけど本心はどうなのか、といったような微妙なニュアンスまでは読み取れない。同じ空間にいるからこそ、肌で感じ取れるものがあり、盛り上がりますよね。

インターネットで物を買うときは、単に色や形などのスペック、価格で決めちゃうことが多いですよね。一方で、百貨店などのような店舗で買い物をするときは、手触りはもちろん、店員が話すうんちくや、作り手の顔、歴史などの背景を感じることが決め手になることもあると思います。そう考えると、インターネットとリアルは組み合わせて使うものであって、どっちか、という話ではないと思います。

 

大事なことは、リアルでもバーチャルでも、自分が大切にするものや価値観を持ち続けること

探検隊

大丸松坂屋「未来定番研究所」の所長を経て、現在は、奈良に事務所を構えて空間デザインや、事務所の一部をシェアキッチンとして貸し出すなど、より幅広い分野でご活躍されています。お仕事で大切にしていることはありますか?

今谷さん

地域の魅力や価値を大切にしていますし、クライアントにもそのようにアドバイスしています。例えば、飲食店の場合は、価格が高くなったとしても、「奈良の野菜しか使ってません」って言い切った方がいい。価格競争は疲弊するだけなので。
大丸松坂屋のマーケティング部門である「未来定番研究所」を、開発された新しい街ではなく、あえて谷根千(*)に作ったのも、そこに歴史があったからです。谷中から上野一帯は、江戸時代に寛永寺の門前町として栄えた町で、その寛永寺に着物を納めていたのが松坂屋なんです。250年以上も変わらず同じ場所にあり続けている百貨店は他にないと思う。
(*)東京都文京区および台東区に位置する谷中・根津・千駄木エリアの総称

探検隊

自分たちが持っている、自分たちの一番大切にしているものや価値観を生かしてやっていけば、おのずと評価はついてくる、ということでしょうか。

今谷さん

良さを分かってくれる人は、熱烈に訪れてくれます。必ずしも、きらびやかなものは必要ないんです。

築約100年の日本家屋をリノベーションした未来定番研究所の谷中事務所

カタチ研究所事務所の外観、シェアキッチンの様子。敷地内の畑で取れた野菜を使った料理提供も行う

旅は「未来の自分へのプレゼント」

探検隊

旅行についてもお話をお伺いできればと思います。今谷さんは、普段から旅行には行かれますか?

今谷さん

ちょっと前までは毎年ヨーロッパに行っていましたが、コロナ禍で色々な制約が出てきてしまってからは行く気が失せてしまって…最近は国内旅行が中心です。仕事を兼ねて行くことも多いですね。せっかく地方に行くのに仕事だけで終わるのはもったいないから。

探検隊

ワーケーションなど、仕事を兼ねて旅行に行かれる方も増えていますよね。今谷さんの旅行へのこだわりはどんなことでしょうか?

今谷さん

それはね、もう割と明確で、いわゆる「観光名所」には行かないことです。もちろん、行ってもいいんだけど、それを目的には行かない。何を目的にするかというと、自分が興味あるモノづくりをしている場所や人を訪ねます。それも、ガイドブックに載っているところではなく、Googleマップでどんどん拡大していくと、ようやく見つかるようなところに行くんです。それがとても面白いです。

あとは、旅行的な楽しみをしながら、自分のストックのために・・今すぐ何かの役に立つんじゃなくても、これを覚えておいたらいつか使えるんじゃない?みたいなことを意識しながら旅行をしているかもしれません。

探検隊

自分の心のポケットにしまっておいたら、未来の自分のなにかに役立つかも…ということでしょうか?

今谷さん

未来の自分へのプレゼントじゃないですけど、いつかその点と点が線で繋がるといいな、とは思っていますね。そんなに期待はしていないですけど (笑) 。アイディアの種をストックしに行く、という風にも言えるかもしれません。

 

今谷さん

あと僕の場合は、「人に会いに行く」旅ですね。自分の趣味で繋がっているコミュニティで、全国に知り合いがいるので、事前に行くことを伝えると、自分が知らなかったようなところや、おいしいものを教えてもらえます。小一時間だけでも会って喋れると楽しいですしね。一人でも旅先で知り合いに会えると、充実感が違います。

 

これからは「街中に溶け込む」ような旅

探検隊

今谷さんの旅のカタチである、「人に会う」「物見遊山はしない」といった旅行者は増えてきているのかな、という気もするのですが、自分の価値を大事にして旅行に行く、という人は増えると思いますか?

今谷さん

体験型、じっくりと同じ場所に滞在してその街を体験する、暮らすように旅するカタチは増えていくのではないかと思います。バブル期のお金をかけた豪勢な旅行ではなく、自分の趣味や興味を軸にしながら街中に溶け込む旅行は増えると思います。

探検隊

そのような旅行を既に今谷さんはたくさん実践されていると思うのですが、まだその旅行をしたことがない人に、どのようにこの旅行の魅力を伝えますか?

今谷さん

難しいですね (笑) 。SNSに旅行の写真をあげると、遊びまくっているように見えるみたいなんですが…(笑)仕事のついで、なんですよね。でも、楽しそうでいいですね、とはいろんな方から言われますね。

探検隊

先ほどお話いただいたように、未来の自分へのプレゼント、という観点に着目するといいのかもしれないですね。

今谷さん

はい、そうですね!

今回の探検で見つけた「芽」

今回の探検で「旅は未来の自分へのプレゼントになる」という発見ができたことは、今後、5年先の旅のカタチを探っていく上で、非常に重要な発見だったと感じます。例えば、旅でのリフレッシュは“元気”を、旅先での体験は“経験値”を、それぞれ未来の自分にプレゼントしていることになります。旅先で漠然と享受していたものが、実は未来の自分へのプレゼントだった、と考えると、旅って素敵なものだな~と思いませんか?次は、どんなアイディアのストックを増やしてあげることができそうか…。そんな風に次の旅を考えてみると、新しい旅に出会えるかもしれません。(KMI)