本コラムでは、今後の観光や旅行のトレンドの把握と変化の兆し(=新しい観光の芽)を捉えることを目的に、旅行分野にとどまらない、様々な分野の第一人者への「探検記(=インタビューの様子)」をお届けします。
今回は、元ミスユニバースジャパンファイナリストで、現在は後進の指導を行いながら、DNA解析を基にした健康法や美容法のプランニングに携わるほか、きょうだいで輸入業の会社を立ち上げるなど、多方面で活躍されている高橋さんにお話を伺いました。
Profile
高橋 未来 さん
立教大学観光学部卒。高校生の頃にミスユニバースのことを知り、大学卒業後会社員をしながらコンテストに挑戦。2016年ミスユニバース神奈川代表となる。その後会社員とミスコンテストの講師という二足のわらじで活動。2018年に会社を退職し、DNAや腸内フローラを扱う個人事業を開始。現在は前述の活動と並行し、弟とBLANK LABEL合同会社を設立し、輸入業を行う会社を経営している。
ミスユニバースへの挑戦で気づいた、自分との向き合い方
探検隊
ミスユニバースは外見の美しさだけでなく、知性や表現力、人間性の魅力などの内面も重視されるコンテストで、社会貢献活動や地域への関心・貢献度も評価されると伺いました。高橋さんがミスユニバースにエントリーしたきっかけはどのようなことなのでしょうか?
高橋さん
ミスユニバースに挑戦すると決めたのは、高校1年生の時です。母の影響で海外に興味があったこともありますが、私がストレートにモノをいう性格で、日本特有の「右に倣え」という環境に生きづらさを感じていたこともあり、高校は英語や第二外国語を深く学べる国際色の強い学校に進学したんです。ちょうど高校1年生の時に、ミスユニバースの日本代表が世界大会で優勝したことを母から聞き、「私、これやるわ!」と心に決めて、ずっと温めていました。学生時代はラクロスに熱中していたので、社会人になってから応募しました。
探検隊
挑戦したことによって気づいたことや、感じたことはありますか?
高橋さん
ミスコンテストって世間一般には美しさを競う大会というイメージが強いと思いますが、世界大会レベルになると「世界の縮図」みたいなんです。経済的に成長している国の参加者は、お金をかけられているから強い、というような世界の事情が見えてきたり、日本国内でもミスコンテストはビジネスなので、お金の動きが見えてきたりしました。なので、自分が磨かれたというだけではなくて、世の中を知る良いきっかけになったと思っています。
探検隊
ミスコンテストに挑戦後は、DNA解析を基にした栄養学のお仕事を始められたのですよね。どうして栄養学という分野に着目されたのでしょうか?
高橋さん
世の中に健康法や美容法はごまんとありますが、自分に合う・合わないってそれぞれあると思うんです。私、2年間ミスユニバースになるためにトレーニングで色々試したんですよね。そこで、すごく効果があって、やってよかったなと思うこともあれば、世の中で良いといわれているのに自分にはなんだか合わないな、みたいなこともたくさんあって。そこで、何で結果が出る人と出ない人がいるのか?というのを考えた時に、「DNAが違うから合うものも違う」っていうのを聞いて、すごく腑に落ちたんです。
それで、栄養学について学び始めて良かったなと思うのは、海外に行った時に環境が変わっても、自分がどういう食事を選んだら体調が悪くなるとか、どういうものを食べれば元気でいられるかというのが分かるようになったことですね。旅行って楽しいけど、疲れるし、コンディションが整わないと満喫しきれないこともあると思うんですけど、旅行に行った時に100%満喫できるようになったので、この学問と出会えてよかったなと思います。
旅行先では、現地に馴染みたい
探検隊
お母様の影響で幼少期から海外に興味があったとのことですが、普段は何を目的に旅行することが多いですか?
高橋さん
私はどこか日本と違う国に行くときにはその国の生活を感じるというのをすごく大切にしていて。
良いホテルに泊まるのもすごく好きなんですけど、どちらかというと民泊など、なるべく現地の生活を感じられるような体験を重視しています。
探検隊
現地の生活を感じることに重きをおいているのはなぜでしょうか?
高橋さん
多分、そもそもは観光客として舐められたくないというような気持ちが一番大きかったと思うんですよね(笑)
ミスコンに出た時も思ったし、高校生でスペインにホームステイした時も思ったんですけど、日本人は日本から一歩外に出たらどう頑張ったって日本人なんですよね。安全ボケしているように見られるのか、大きいスーツケースを持っているとスリの標的になることもありますし。だから舐められないように、ちゃんと現地に馴染みたいというところがスタートだったと思います。
それと、私自身が他国の文化に触れてそれを理解するということが好きなので、なるべく現地に入り込んで、ローカルの人達が行くお店に行くことにワクワクします。いわゆるメジャーな観光地にも行くけど、みんなが知らないようなところや、入って大丈夫?というところに行って、「めっちゃ美味しいじゃん!」という店に出会った時などに、すごく価値を感じますね。
大切なのは、自分自身をもっとよく知ること
探検隊
高橋さんご自身は、結婚してご家族がいらっしゃいますが、独身時代と旅行のスタイルの変化はありますか?
高橋さん
目的がないと旅行に行かないというのはずっと変わっていないです。最終的に自分が経験したいことを主軸に考えているんですけど・・・、ただ、先日初めて娘と海外に行って、「娘がどう思っているか」「娘にどのような経験をさせられるか」と考えるようになったのが、親になって価値観が変わった点だと思います。同じ経験をしていても、私はすごく楽しいって思っていても、誰かにとっては苦痛だったら、楽しい思い出にならないじゃないですか。自分だけでなく、同じことを体験した他の人たちがどう感じているのかということはすごく考えるようになりましたね。
探検隊
お母様から受けた教育や想いがお嬢様へ繋がっていくようで、とても素敵ですね。
高橋さんの身の回りでは、旅行スタイルの変化を感じることはありますか?
高橋さん
海外では、個人やすごく小さな会社が、完全プライベートでその人のためだけに組んでくれるツアーを提供していることが増えてきているように思います。今後、そういうサービスを利用する日本人が増えたり、いわゆるアッパー層の人たちがそういう旅をしたりするのではないかと思いますね。
探検隊
オーダーメイドで、その人のためだけの旅行を提案するというのは、DNA解析を基にした美容法や健康法の提案にも近いものを感じます。高橋さんがその人にあった提案をするために重視していることはありますか?
高橋さん
オーダーメイドまではいかなくても、ある程度パーソナライズされたものは必要になってくるのかなと思います。DNAの仕事をしていても「みんなにとっていいですよ」よりも、「あなたにはこれがいいですよ」っていう方が刺さるんですよね。ただ、お客さまとコミュニケーションをとる上で重視しているのは、求めている以上のものは与えないということです。お客さまは情報が過多になると思考がストップしてしまうことがあると思います。私たちは知識があるので、あれもやった方がいい、これもやった方がいいと何でも教えたくなってしまうんですけど、その人が今欲しい情報だけを渡す、ということはすごく意識しています。
探検隊
情報過多という面では旅行業界も同じ課題を持っています。また、旅行業界では、情報は溢れているものの、DNAのような定量データを使いこなせていないケースも多く、パーソナライズされた情報提供が思うように進んでいない気がしています。
高橋さん
DNAもそうなんですけど、世の中には自分のことを分かっていない人が多いのかもしれません。ミスコンの講師をしている時も、「あなたは何が好きなの?」「何が嫌なの?」「どういう時にワクワクするの?」と投げかけた時に、答えられない人が多い印象を受けます。
旅行に関していえば、私は、ツアーで決められた日程で行くよりもローカルに楽しむことが好きだと自分で分かっているのでそういう旅行を選びますが、自分が好きなことがわかっていないと、そもそも民泊をしようという選択肢は出てこないと思うんです。「今ここがアツいっぽいから行きたい」とか「友達が行っていて良さそうだったから私も行ってみたい」とか、そういう動機で行くのももちろん良いと思います。でも、ちゃんと自分のことを知って、自分が何を求めて旅行に行くのかっていう目的意識を持ったうえで、「行き先をどこにするのか?」「ツアーで行くのか?全部自分で手配するのか?」ということを選べたら、1回の旅行の満足度はもっと上がるのかな、と思うんです。
だから、お客さま自身が本当は何がしたいのか、お客さま自身も自分を知ることが旅を選ぶうえでもすごく大事だと思います。
今回の探検で見つけた「芽」
今回の探検では、「自分のことを知ることで、旅行をより楽しめる可能性が広がること」を発見しました。自分のことは自分が一番知っているようで、意外と分からない・・・という方も多いのではないのでしょうか。
今後AIなど技術の進歩によって、どの分野でもパーソナライズした情報提供が加速することが予想されます。それが当たり前の時代が来る前に、今の自分が本当に好きなことや求めているものは何なのか、一度自分自身で考えて向き合ってみることで、今とは違う旅のカタチ、違う生き方に出会えるかもしれません。(BCN)