世界経済フォーラム(WEF)の「旅行・観光開発ランキング(2024)」で日本はアメリカ、スペインに次いで3位
2024年5月に発表された「旅行・観光開発ランキング(2024)」で日本は、アメリカ、スペインに次いで3位とトップ3の一角となりました。今回の評価のポイントについて考えます。
2024年5月21日、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)の2024年版「旅行・観光開発ランキング(Travel & Tourism Development Index)」が発表され、日本は1位のアメリカ、2位のスペインに次いで3位となりました。限られた指標を用いたランキングであり、この結果がすべてというわけではありませんが、日本が世界からどのようにみられているのかを知り、他国・地域と比較した時の強みや課題を考えるヒントとしては大変参考になる資料です。
2021年版(発表は2022年)からの指標の変更点やアメリカ、スペインとの比較などから、2024年版における日本の評価におけるポイントをみていきたいと思います(表1)。
●2024年版における指標の変更点
「旅行・観光開発ランキング」に使用される各種の指標は毎回変更点が多く、一概に過去の結果と比較はできません。ちなみに2021年版で日本は1位にランキングされていましたが、今回の指標変更に伴い再計算された結果では、2位となっています。
2021年版から2024年版で変更・新設された指標は、以下の6つです。
- 労働市場の持続可能性と平等性(Labour Market Resilience and Equality)
- 観光サービスとインフラ(Tourist Services and Infrastructure)
- 旅行と観光への開放性(Openness to T&T)
- 旅行と観光のエネルギー持続可能性(T&T Energy Sustainability)
- 旅行と観光の社会経済的影響(T&T Socioeconomic Impact)
- 旅行と観光需要の持続可能性(T&T Demand Sustainability)
中でも大きく変わったのは、「労働市場の持続可能性と平等性」の中で、雇用機会の均等性や社会保障制度などが指標として追加されたこと、「観光サービスとインフラ」では、宿泊施設や飲食店などでの労働効率性が評価対象になったこと、4つの指標に「T&T(旅行と観光)」という文言が入ったことからもわかるように、より旅行と観光の市場に絞った指標(各国・地域の「おもてなし度」、旅行と観光に限定した二酸化炭素排出量などの環境対応度や、旅行と観光(直接的、間接的、波及的)がGDPに占める割合など)が採用された、という点があげられます(図1)。
●2024年版の日本の評価ポイント
今回の指標の中で、日本が高評価を受けたトップ5は、「文化資源」(Cultural Resources)、「健康と衛生」(Health and Hygiene)、「地上と港湾インフラ」(Ground and Port Infrastructure)、「ICT整備度」(ICT Readiness)、「安全・安心」(Safety and Security)でした。これらの指標は、過去のランキングをみても日本のポイントは高く、変わらず日本の強みということができます。
一方、再計算された2021年の得点から減少率が大きかった指標は、「旅行と観光の需要持続可能性」(T&T Demand Sustainability)や「観光サービスとインフラ」(Tourist Services and Infrastructure)でした。特に、「宿泊施設や飲食店における労働効率性」と「国際旅行者のピークシーズンへの集中度」に関する評価が低くなっています。また労働に関しては、「地域における熟練スタッフの獲得しやすさ」の評価もやや低い傾向がみられました。コロナ禍を経て急速な回復を見せる訪日旅行者への対応にあたり、オーバーツーリズムの問題を生じさせないための、効率性や時期的・地理的な分散、地域における人材確保などの課題が改めて浮き彫りになったとも言えます。
●アメリカ、スペインとの比較による日本の強み・弱み
次に、1位のアメリカと2位のスペインとの違いから、日本の特徴をみてみます(表2)。
アメリカで評価が高かった指標は、「ICT整備度」、「航空輸送」、「自然資源」、「非レジャー資源」でした。「自然資源」は、自然遺産の数や保護エリアの広さなど、「非レジャー資源」に関しては、グローバル企業やグローバル都市の存在、大学の質、ウェブ上でのビジネス旅行・教育旅行・ヘルスツーリズムの検索数などの評価によるものです。
スペインで評価が高かった指標は、「安全・安心」、「文化資源」、「航空輸送」などでした。「安全・安心」に関しては、地元警察への信頼度や夜間に安心して歩ける環境、医師の数などが評価され、日本より高い結果となりました。日本は治安がよいというイメージがありますが、現状に甘んじることなく、災害時なども含め、旅行者にとって安心できる環境づくりを継続的に行っていくことも必要ではないでしょうか。「文化資源」では、有形・無形文化遺産やスポーツスタジアムの数、ウェブ上での文化資源に関する検索数などが評価されています。スペインはアメリカと比較して特に高い点数を取っている指標は少ないものの、低い点数も少なく、全体的にバランスが取れていると考えられます。
日本で特に評価が高かった指標は、「地上と港湾インフラ」、「文化資源」、「非レジャー資源」です。「地上と港湾インフラ」に関しては、道路網の充実度、鉄道や港湾輸送の効率性、公共交通機関の充実度などの評価が高く、「文化資源」では、スペイン同様に、無形文化遺産やスポーツスタジアムの数、ウェブ上での文化資源に関する検索数などのスコアが高い傾向がみられました。「非レジャー資源」では、グローバル企業の数、ウェブ上でのビジネス旅行・教育旅行・ヘルスツーリズムの検索数などが評価されました。
一方、日本はアメリカに比べ「自然資源」のスコアが低くなりました。とはいえ、自然遺産の数や種の多様性などではアメリカに及ばないものの、ウェブ上での自然資源に関する検索数では、アメリカを上回っており、旅行者からの需要は多いと考えられます。
なお、「航空輸送」に関しては、日本はあまり高いランキングではありませんでしたが、内訳をみると空港間の接続性や航空サービスの効率性など、決して得点が低いわけではありませんでした。コロナ禍の影響からか、指標にはあっても点数化されていない項目なども見られることから、「航空輸送」のスコアに関しては、次回の評価を待ってもよいかもしれません。
冒頭にも書いた通り、これらの結果がすべてを表しているわけではありませんが、コロナ禍の影響から日本の観光産業が健全な回復と飛躍的な成長を遂げるために、オーバーツーリズムや環境保護への対応、人材確保などが重要であることが改めて示されました。
また、国際的な旅行者に対し、夜間に安心して歩ける環境や災害時の対応(観光危機管理)などの安心・安全を提供するとともに、自然資源を求める旅行者への情報・サービス(アドベンチャーツーリズムなども含む)の充実、観光以外のビジネス、教育、ヘルスツーリズムなどにも可能性が感じられました。
また、日本でも2024年4月から、ITを活用して世界各地を移動しながら働く「デジタルノマド」を対象に、6か月の滞在と就労が可能な在留制度が開始されました。観光だけではない旅行者を誘致することで、訪日旅行者の時期的・場所的な集中を避けることにもつながることを期待します。