連載
玲玲細語 ~中国人研究員が見て感じた日本と中国~
ハルビンVS海外?国慶節の動向から、変化する中国人の旅行スタイルと情報源を考える!
コロナ後の中国人観光客獲得に向けた新たな戦略のヒントとは?国慶節の中国人旅行者の動向から、変化する旅行消費スタイルと情報源を探ります。
1. 2024年10月1日~10月7日国慶節大型連休における国内・海外旅行の現状
- 中国人の国内旅行
- 中国人の海外旅行
- 訪日中国人旅行者
中国文化・観光部(文化和旅游部)の発表によると、2024年の国慶節期間(10月1日~10月7日)の延べ国内旅行者数は7億6500万人で、前年同期比5.9%増、2019年同期比10.2%増でした。国内旅行者の旅行消費額は合計7008.17億万元で、前年同期比6.3%増、2019年同期比7.9%増、1人当たり平均消費額は、916元(約18,322円)でした。
中国国家移民管理局は、7日間での延べ出入国旅行者数は758.9万人で、前年同期比33.2%増と発表しました。中国最大の旅行予約サイト携程集団(トリップドットコム)の「2024年国慶節観光消費レポート」によると以下のような変化が見られました。
①国際航空便:シンガポール・マレーシアの国際路線は100%回復し、2019年を上回った。
②海外旅行者層:
・「一、二線都市1」の旅行者:英国、米国、オーストラリア等の遠距離の地域を選ぶ傾向。
・「四、五線都市」の旅行者:近場を選ぶ傾向。初めての海外旅行が増加。継続顧客、新しい消費ターゲットとして期待される。
③同行者:ファミリー層の割合は34%から37%に増加。親子旅行の平均旅行消費額は全体の2倍以上。
④人気旅行目的地:日本はトップ1の旅行先として選ばれた。次いで、タイ、韓国、マレーシア、シンガポール、ベトナム、インドネシア、英国、米国、オーストラリアの順。
中国人の訪日旅行は回復する傾向にあり、2024年1月~9月の訪日中国人旅行者は約525万人で、2019年の8割弱まで戻っています。旅行消費額において、中国国内の消費が弱いと言われる中、2024年7月~9月期の観光庁「インバウンド消費動向調査」によると、訪日外国人旅行消費額1兆9,480億円のうち、中国が5,177億円で、全体の26.6%を占めています。1人当たりの旅行消費支出は約267,000円で、2019年同期の水準に戻りました(ここでは為替の影響を除きます)。
2. 旅行消費スタイルの変化
2023年に新型コロナウイルス感染症の防疫措置政策終了後の中国人の旅行消費スタイルについて、以下3つのキーワードやフレーズから変化が分かります。
- 「特殊部隊型旅行/出張」
- 「シティウォーク」
- 「海外旅行よりハルビンのほうがコスパがいい」
「特殊部隊型旅行(特種兵式旅游)」は、費用をかけず短時間でたくさんの観光地を回る、コスパ、タイパを重視し、ハードスケジュールを組むユニークなスタイルです。限られた時間でたくさんの観光地を回り、写真をSNSなどでシェアする、大学生や20代の若者の間で人気の弾丸旅行です。また、コロナ後のエンターテインメント市場(コンサートツアー、トークショー等)の盛り上がりの影響も流行の要因の1つと考えられます。2023年中国で開催された5000人以上のコンサートは3100回で、総収入は177.16億元でした。
筆者もコンサートに合わせ1泊2日の「揚州特種兵旅行」を実行しました。繁忙期ではないのに大勢の観光客がいて、旅行消費意欲の高まりを感じました。念願の「揚州迎賓館」8号館はなかなか予約がとれず、最終的に知り合いに頼んで、なんとか1泊4万円(普段は17000円前後)で18号館に宿泊。伝統的な衣装での無料撮影サービスなどがあり、倍以上の料金でもコスパは悪くなかったのかも(笑)。
揚州の観光スポット「東関街」
18号館の部屋
18号館の外観
「揚州迎賓館」の園内の一隅
2022年にSNSアプリ小紅書(RED)が発表した「2022年の生活トレンドトップ10」で「Citywalk」が5位にランクイン。中国語では「城市漫遊」、文字どおり、自転車や徒歩でそぞろ歩くスタイルで、旅行者だけではなく、自分の住む都市の歴史や文化を再認識し、町の雰囲気を感じることができます。2022年の中国はゼロコロナ政策で、他の都市に行き隔離される危険を冒すことなく、自分の住む街を楽しむという考えが広がったものと考えられます。現在でも小紅書などSNSではシティウォーク攻略法などが紹介され、検索数を伸ばしています。特に上海では週末になると、人気スポットで写真を撮りながらそぞろ歩く若者たちが多く見られるようです。
コロナ後の国内旅行需要回復に関連して生まれたフレーズ「不是海外去不起、哈爾浜更有性価比」。海外に行く余裕がないわけではないが、哈爾浜(黒竜江省ハルビン市)に行くほうがコストパフォーマンスがいいという意味。ハルビン市は19世紀後半、シベリア横断鉄道の支線である東清鉄道の建設とともに経済が発展し、「極東のパリ」とも呼ばれていた。市内にはロシア風の聖ソフィア大聖堂などがあり、アジアとヨーロッパの建物や文化を感じられる。わざわざ大金を払って遠い欧州に行かなくても、ハルビンにいけば、ヨーロッパの雰囲気を味わえ、冬にはハルビン氷まつりも楽しめる。このような費用対効果の高さから、2023年年末ハルビンは一夜にして人気観光都市に。オンライン旅行コミュニティサイトやクチコミなど「ネット」の宣伝効果が改めて注目され、「不是○○去不起、△△・更有性価比(○○に行けなくもないが、△△はもっとコスパがいい」というフレーズが、いろいろな都市や観光地の宣伝に使われるようになりました。
余談ですが、同じ東北三省にある私の故郷瀋陽もハルビン人気の恩恵を受け人気観光地になりました。5月瀋陽に帰った時、学生の時によく行った「朝の市場」は観光客が溢れているのを目にし、世界遺産に登録された「瀋陽故宮」では、いろんな方言が飛び回っていました。ネットの力で瀋陽は「工業都市」から「観光地」に変わりつつあると気づかされました。
3. 情報源の変化
コロナ前は検索サイト(百度等)、友人・家族の口コミ等から情報収集することが多かったのですが、コロナ期間の外出制限が長かったため、ショート動画アプリでの情報収集や、ライブコマースのネットショッピングが急速に発展し成長しました。iiMedeia Researchの「国慶節消費新潮流レポート」よれば、2024年国慶節期間の旅行情報収集源において、「小紅書」「知乎」などのコンテンツシェアのためのソーシャルプラットフォームの利用が最も多いという結果でした。
今後、中国人旅行客の獲得を考える際、旅行に関する情報源の50%以上を占める「小紅書」「知乎」などを「知らない」と片づけるのは、要注意です。訪日中国人旅行者はコロナ前の団体旅行から個人旅行にシフトしつつあり、若年層の海外旅行増加と共に、情報源も、家族や友人などの身近な意見から、SNSなどネットにおけるより広範囲のクチコミへと変化しています。
ここでは一部のツールを簡単に説明します。
日本の観光資源、自社商品やサービス等を中国消費者に広めるには、時代とともに、情報をメンテナンスし、「今」のトレンドを理解し、自社の特徴に合ったクロスボーダーマーケティング戦略を策定すべきでしょう。
また、コロナで日中旅行は約3年間止まりました。しかし今後、別の感染症や戦争、自然災害により、中国に限らず外国との往来が止まる可能性があります。そうした危機を想定し、観光関連事業者として何を準備するか、インバウンド消費を「日本国内での消費」「帰国後の再消費」に分けて対策を考えていくことが重要だと思われます。