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小さな町の大きな変革 ~茨城県境町の取り組みとは~

人口約24,000人の茨城県境町。年間170以上の視察依頼を受けるほど、今、注目を集めています。その理由とは?小さな町が起こした大きな変革に迫ります。

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茨城県の境町は、人口約24,000人の小さな町ですが、ここ10年で急速な発展を遂げています。かつての境町は、多くの地方町村と同様に、産業の衰退や人口流出に悩まされていました。年間400人以上が町を離れる年もあり、魅力を失いつつありました。
 しかし、「若い人たちが帰ってきて働けるまち」と「三世代で安心して暮らせるまち」というビジョンのもとに取り組みを進めた結果、人口減少に歯止めがかかっただけでなく、令和6年度は平成29年度以来7年振りの人口増加が見込まれるなど、移住定住の促進と産業発展を実現し、今では年間180以上の自治体や企業から視察依頼が来るほど注目を集めています。
 境町の革新的な取り組みの中から、特に注目すべき3つを紹介します。

1. 自動運転バス

境町は、日本の自治体で最も早く公道での自動運転バスの定常運行を開始しました。2021年8月からは2路線で運行しており、フランス製のバスを使用しています。技術的には完全自動運転が可能ですが、現在は運転者の乗車が必要なレベル2で運行しており、約80%の自動運転率となっています。
 小型で可愛らしいデザインのバスは無料で利用でき、特に65歳以上の高齢者(町人口の3割以上)に人気です。この取り組みは、ドライバー不足という課題に対しての一つの解決策となっています。

2. 英語教育の充実

日本は世界第4位の経済大国でありながら、英語でのコミュニケーション能力が課題とされてきました。境町では、この課題に積極的に取り組んでいます。
 幼稚園・保育園から中学校まで、英語教育を強化。日本の学校の外国人英語教師数が平均0.7人であるのに対し、境町では3.1人と大幅に上回っています。さらに、全ての英語教師はフィリピン出身のネイティブスピーカーで、生徒たちは日常的に生きた英語に触れることができます。
 このように、国際的なコミュニケーション能力を持つ若者を育成することで、海外からの観光客と接したり、海外旅行をしたりする際にも、外国人と交流することができ、国際的な意識の情勢・活動も可能になります。世界で最も多くの人々がコミュニケーションで利用している英語が話せるようになると、良く言われるような「日本はガラパゴス」のイメージも消えていくことでしょう。

3. アーバンスポーツの聖地化

境町は、スケートボードやBMXなどの「アーバンスポーツ」の国内メッカを目指しています。2021年には「アーバンスポーツパーク1st」を完成させ、世界的なトップライダーを地域おこし協力隊として招聘してコーチとして活動させています。
 2024年には東京2020オリンピック競技大会で使用されたBMXフリースタイル・パークの会場を移設し、雨の多い日本でいつでも利用できるよう全天候化した「アーバンスポーツパーク2nd」を完成させました。この施設は、世界最高レベルのパークであり「オリンピックレガシー継承施設」としてオリンピック金メダリストなど、国内外から多くのライダーを惹きつけています。
 さらに、2025年2月には、国際ローラースポーツ連盟の「ワールドスケート」と覚書を締結し、境町をワールドカップなどの国際大会の拠点開催地として決定。2030年には、スケートボードなど車輪をつけて滑走する10競技以上の選手が集結する世界最大の車輪スポーツイベント「ワールドスケートゲームズ」の開催も予定されています。このイベントは、境町だけではなく茨城県全体で実施される予定です。
 これらの取り組みは、境町への「スポーツ観光」による新たなインバウンド需要の創出にもつながることでしょう。
 さらに境町の革新的な取り組みは、この3つだけにとどまりません。ふるさと納税での成功、主に子育て世帯に向けた住宅の整備や各種奨励金・補助金制度の充実した子育て支援など、多岐にわたる施策で町の発展を推進しています。
 このような小さな町の大きな挑戦は、日本国内だけでなく海外からも注目を集めており、今後のさらなる発展が期待されます。

私が初めて境町を訪れたのは、ほんの5年前ですが、その時はアーバンスポーツパークも自動運転バスも存在していませんでした。それからの短期間で、2つのアーバンスポーツパークを含む、6つのスポーツ施設が作られ、公道を走行する自動運転バスが登場し、境町の街並みも大きく変わりました。明確なビジョンを持って計画を実行することが、素早い改革につながる好事例ではないでしょうか。これからの境町のさらなる発展が楽しみです。