株式会社JTB総合研究所は、2014年6月4日、『観光危機管理 考えるプロジェクト』研究会(第四回)を開催しました。
今年度の研究会初回は、『危機時の情報収集/情報提供』にテーマを絞り、風評の発生可能性を低減させるための情報発信の方法、危機後のタイムテーブルに応じた優先すべき発信情報の工夫などについて、東日本大震災や昨冬の大雪時の具体的事例を基に話し合いました。また、参加者が実際に遭遇した危機対応事例の共有と、その経験からの学びについて意見交換を行いました。
研究会概要
- 所管する自治体等のエリア外で発生した事象の影響を受けて発生する観光危機
- 風評や流言はなぜ生まれるか
- 風評の流布を最小限にとどめるための情報収集/情報発信の方法
流言の生まれる構造について、R(うわさ話の流布量)= i(うわさ話の重要度)× a(うわさ話の曖昧さ)という定義があります。(オルポートとポストマン, 1947)
今年2月の大雪時に、山梨県で多くのビニールハウスが雪の重みで倒壊した映像は、数日間にわたってテレビで放映され続けました。このように、何らかの危機は多くの人々にとって重要度の高い情報であり、多くのメディアが繰り返し関連情報を発信します。また、新型インフルエンザ等の感染症流行などの重大な危機に関わる情報は、関連する土地に居住する人、あるいはそこを訪れた/訪れようとしている人にとって極めて重要度が高いものです。危機時には、この定義のR(うわさ話の流布量)とi(うわさ話の重要度)がそれぞれ非常に高く、流言の発生する可能性を低減するためには、a(うわさ話のあいまいさ)を抑え、正確な情報を発信することが不可欠になります。
また、東日本大震災の際に発生した風評やデマ(例:千葉県、コスモ石油における施設の一部爆発により有害物質が雨とともに降る、など)に接した人のうち、7~10%は、“よかれと思って”メールやSNSを通じて身近な人に情報を拡散していたことが明らかになっています。そして、危機時の報道等によって「不安」な気持ちを感じた人ほど、風評に左右されたり、拡散したりする傾向が強いこともわかっています。
こうした事例に対し、人々の不安な気持ちを払しょくするため、迅速に正確な情報を発信した企業や地方行政、警察等の公的機関の対応事例について紹介しました。
昨冬2月に発生した大雪は、週末の土日を通じて降り続けました。予め一定の予測情報が共有されていたものの、週末であったために地方行政職員の参集指示や、情報収集に関する初動対応が遅れたこと、システムメンテナンス日と重なったことによる情報共有・発信システムが自動的に稼働しなかったことなどの課題が浮き彫りになりました。一方で、大雪発生の約2週間後には観光キャンペーンを開始するなど、危機への対応と並行して需要喚起策を展開し、需要の落ち込みを最低限に抑えたなどの積極的な取組も報告されました。地域行政におけるSNSの利用推進や、危機発生時には観光情報用のウェブサイトに災害情報集約機能を付加するなど、インターネットを活用した情報収集/発信の取組は徐々に進んできています。とはいえ、危機(災害)対策本部とウェブサイトに集まってくる情報との連携体制が明確でないなど、ソフト面での整備はまだ途上にある組織も少なくないようです。
同時に、大雪や台風など、危機の到来が予め一定程度予測できるケースについては、情報提供をするにあたって、「空振り(※事前の情報発信内容よりも、実際は被害が小さく済むこと)」の経済的リスクに対する認識を、地方行政と産業界が平時からきちんとすり合わせておくことの重要性についても指摘されました。「住民や観光客・帰宅困難者の身の安全を守る」ことと「産業界の損失を可能な限り小さくとどめる」ことは、短期的視点でみると、必ずしも最善の対応が合致するものとは限りません。しかしながら、長期的な視点に立てば、観光地が住民や来訪者の安全を第一義に置いて空振りを恐れずに危機への早期対処をすることは、ひいてはいざというときにも安心な観光地の信頼向上にも繋がっていくものと考えます。