株式会社JTB総合研究所は、2014年8月27日、「観光危機管理考えるプロジェクト」研究会(第五回)を開催しました。
本年度第二回目となる本会は、「個人の危機への対応」という、今までとは異なる観点で観光危機管理について考えました。
研究会概要
- 観光客がトラブルに巻き込まれた場合の支援のあり方の検討
- 観光客を個人的危機から守る取り組み事例紹介
- 外国人への医療対応と通訳派遣のあり方
過去四回の研究会では、地震や津波といった大規模な災害を主な「観光危機」として定義し、観光客を対象とした避難誘導・宿泊施設での一時滞在や帰宅支援に向けての体制整備・風評被害発生の抑止などについて研究を重ねてきました。しかし、観光客に影響を及ぼす危機には様々な種類があり(下図参照)、その種類によって対応の方法は大きく異なってきます。
今回の主なテーマである「個人への危機」は、その規模や地域の観光産業全体に与えるダメージ自体は小規模なものの、発生件数自体は規模の大きな危機と比べて多いことが予想されます。窃盗や詐欺といった事件に巻き込まれ、被害を受けてしまうこともあれば、自動車を利用した観光客が人身事故を引き起こし、自らが加害者となる場合もあります。旅行先で怪我や突然の体調不良も観光危機の一種であり、特に外国人観光客の場合、言語の問題で医療行為自体が難しかったり、医療保険の適用ができないことから高額な治療費を支払わなければならないなど、楽しい「観光」が一転し、大きな損害をもたらす原因となってしまいます。外国人観光客の海外旅行保険加入率が高いとは言えない状況である今日では、観光客が個人的危機に見舞われてしまった場合の対応やサポートは、外国人観光客への「おもてなし」の強化を推進するに当たり必要不可欠な観点であるといえます。
世界的な国際観光地であるハワイでは、「Visitor Aloha Society of Hawaii (略称VASH)」というボランティア組織が観光客の個人的危機への対応をおこなう専門機関として機能しています。同組織では、日本語をはじめとした複数の言語に対応した通訳者の派遣体制が整えられており、日本人観光客だけでも年間300件以上の個人的危機(特に多いのは窃盗被害)に対してサポートをおこなっています。
日本では、多言語での対応が大きな課題であると考えます。特に、高度な外国語読解能力が求められる医療行為時の通訳サポート体制は未整備といえます。先進的に医療通訳を育成および派遣している組織は複数存在していますが、サービスの対象は主に地域居住者であり、観光客への対応まで考えられている事例はごく少数にとどまっています。
JTB総合研究所では、地震や津波といった大規模な危機を想定した観光危機管理だけでなく、本研究会で検討したような「個人への危機」に対する観光危機管理も研究対象とし、日本における対応体制のあり方について今後も研究を重ねていきます。