JTB総合研究所の「考えるプロジェクト」 

12月1日 中央防災会議 火山災害対策検討作業部会を立ち上げ

2014.12.02 河野まゆ子  JTB総合研究所 主席研究員

国の中央防災会議は12月1日、御嶽山(長野・岐阜県)の噴火を踏まえた火山災害対策を検討する作業部会の初会合を開きました。突発的な噴火に備えた監視観測体制をはじめ、これを可能とするための研究体制並びに専門家育成の方策、火山防災情報内容や伝達方法等について議論を行い、来年3月末に提言をまとめる予定です。
火山防災を巡っては、気象庁の検討会が11月28日に、火口付近の監視カメラ増設などを盛り込んだ緊急提言を公表しました。本作業部会は、提言の内容を踏まえつつ、観測体制の強化に関する国全体の方針を示していくものです。
【参考】気象庁 火山情報の提供に関する緊急提言について(11月29日報道発表)


御嶽山の事例を踏まえ、登山者、観光客への対応の難しさや課題が浮き彫りとなりました。ワーキンググループメンバーの一員として弊社に求められることは、地域防災計画のみでは守られない外部からの来訪者に対する適切な情報内容や提供方法のありかたの検討はもとより、それを地域が主体となって実行することが可能な表現として提言に盛り込んでいくことと認識しています。
以下、第一回作業部会を通じた所感を記載します。

[研究体制の充実と専門家育成]
日本において、地震や津波等の他の災害と比較すると、相対的にみて火山防災対策は遅れがみられると言われます。数十年前は「休火山」という名前で示していたように、常時活発に活動している火山の数はそれほど多いとは言えません。活動していない火山は、観測データを収集し、検証することができないため、通常は大学等の専門家の研究対象から外れます。生きた研究調査対象となる山が少なければ、研究者のフィールドは限定的となり、ひいては、観測、分析を行う専門課としての職(ポスト)も限られます。このような状況が、若手研究者を継続的に育成し、現在は活動を止めている火山にも目を配る体制の構築を困難にしてきました。
若手研究者の育成を推進すべきであることは言うまでもありませんが、複数の火山の情報・状況を複数の専門家が共有・検証できるネットワークの構築や、大学退任後の研究者の活用と、地域の山に精通した地元の山岳関係者とのテレワークの推進など、ソフト面の強化には様々な可能性がありそうです。

[火山防災情報内容や伝達方法等]
情報提供の側面について、気象庁の提言にある『登山者等』という表現の噛み砕きが、本作業部会で検討を進めるうえでまず重要なポイントになると考えます。『登山者等』を、「火山(の近く)を訪れた来訪者」と仮に規定した場合、それを細分化すると、山に関する一定の知識を有し、一定の装備を持参している登山者、他県を観光したあとで山麓の温泉に泊まっている観光客、綺麗な景色を楽しむドライブ素通り客、季節のお花を愛でたり写真を撮ったりするために募集型団体旅行のバスで訪れるシニア層、など多岐に渡ります。これらの方々は、山に対する知識や意識、装備、脚力、情報ツール、来訪経路・手段がそれぞれ異なります。言い換えると、これらの方々の個々の行動パターンや志向、知識レベル等に応じて、情報提供の方法、情報ツール、情報を入手するコンタクトポイントが全て異なってくるということです。さらに、提供される情報は、それを入手した人が、その情報を根拠に、自分がとるべき行動を選択・判断できるものでなくてはなりません。

御嶽山の事例では、被害にあわれた多くの方々が「登山者」でした。このことにより、登山者の入山届のあり方等に注目が集まっていますが、広い国道で火口近くまで行ける火山もあるうえ、次の火口がどこにできるか予測ができない火山もあります。“いま自分は火山に近づいている”という自覚のない観光客やドライブ客などに対して、必要な情報はどのようにあるべきか、という議論も今後必要になってきます。
日本の誇るべき観光資源である温泉は、火山の恵みでもあります。地域の自然環境や温泉等の資源を継続的に継承していくためにも、火山を必要以上に恐れるのではなく、地域及び来訪者と火山との適切な付き合い方を模索し、普及していくことが求められます。

2014.12.02河野まゆ子 JTB総合研究所 主席研究員

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