JTB総合研究所の「考えるプロジェクト」 

〔登壇報告〕インバウンド・ジャパン2016 [観光復興セッション](7月22日)

2016.07.29 河野まゆ子  JTB総合研究所 主席研究員

講演の様子

7月20日から22日にかけて、日経BP社主催による『インバウンド・ジャパン2016』が東京ビッグサイトで開催されました。インバウンドに関わる集客・マーケティング関連会社、多言語対応/ランゲージ関連会社、ICT関連会社、ハラル関連組織・企業等の出展があり、併せて多くのセミナーが開催されました。そのうち『観光復興セッション』と題したセミナーにおいて、基調講演並びにパネルディスカッションが行われました。その概要を抜粋して以下にご紹介します。

【基調講演】
株式会社JTB総合研究所 観光危機管理研究室 主任研究員 河野まゆ子

  1. なぜ観光危機管理が必要なのか
    • 観光は危機に対して脆弱な構造にあり、危機発生後には通常の交通・通信・人的資源が使用できなくなる
    • 観光客の「命と安全を守った後」の行動までをサポートすることで「安全・安心な観光地」の持続的発展につながる
    • 平時のうちに、適切な準備を行っておくことで、「いざ」という時の対応が可能。平常時にできないことが、危機発生時にできるはずがない
      • 事例1:インドネシア「Tsunami Ready」:ホテルにおける観光危機管理の発展に取り組んでいる民間会社
      • 事例2:アイスランド火山噴火(ケーススタディ):欧州での航空・宿泊客への影響など対応計画を持っていなかった事で脆弱性が露呈されたケース
      • 事例3:スマトラ沖地震の際のバンコク病院プーケット:組織内判断における観光客への真摯・人道的な対応がデスティネーション評価に与えた影響、危機経験を踏まえた継続的な運営改善
  2. 観光危機管理に対する関心の高まり
    • 大規模な地震発生後の観光市場への影響
      能登半島沖地震・新潟県中越沖地震での観光客の推移と東日本大震災を事例にそれぞれの特徴を説明。地震による被害のみの場合、需要回復には約半年~一年を要する。特に、外国市場の需要回復には時間を要する
    • 国際的に、渡航先での「災害対策」を重視する傾向が強まる
      SAFE HOTELS(スウェーデンの民間会社)による認証制度。一定の基準を満たすホテル企業群に認証を与える。これらの取組は欧州から推進され始めたため、アジア圏におけるグローバル基準の取組推進は緒に就いたばかり
  3. 観光復興=災害時の観光地マーケティング(熊本地震を踏まえて)
    • 雲仙や人吉など、熊本地震による直接被害が殆どない観光地でも、自身翌日からキャンセルが相次ぐ。とくに修学旅行生のキャンセルが顕著(風評被害)
    • 海外での様子
      • 韓国:地震後の相次ぐ定期交通機関の運休、地震の少ない韓国人は敏感に反応
      • 台湾:CIが高雄‐熊本を運休
      • タイ:影響が薄く、キャンセルは少なかった
    • 回復に向けた取り組み・情報発信は「潮目」を読むことが重要。『宿泊施設における、キャンセル数と新規予約数逆転した(予約がキャンセルを上回った)時』が積極的なプロモーションを開始する“潮目”

【パネルディスカッション】
≪パネリスト≫
■ 鶴田ホテル(ホテルニューツルタ)代表取締役社長:鶴田浩一郎氏
■ 日本大学危機管理学部 教授:福田充氏
■ 株式会社JTB総合研究所 観光危機管理研究室 主任研究員:河野まゆ子
■ モデレーター:日経BP社建設局プロデューサー黒田隆明氏

以下、パネリスト発言要旨

■ 福田充氏

  • 災害時の風評被害を例に災害時のパブリックリレーションズについて言及。パブリックリレーションズとは、パブリックリレーションズとは、組織と組織をとりまくパブリックの間の、相互に利益のある関係を築く戦略的コミュニケーションのプロセスのことをいう
  • 観光危機管理のためには「クライシスコミュニケーション」(災害が生じた際のコミュニケーション)と「リスクコミュニケーション」(災害を未然に防ぐためのコミュニケーション)の両者が必要となるが、特に風評被害対策のためには平常時からの情報発信とリスクコミュニケーションが重要となる

■ 鶴田浩一郎氏

  • 熊本地震による宿泊市場への影響と回復の状況について。観光客は九州全体で2割減少。大分県に関しては3~4割減。福岡県は復興需要により増加しているが、長崎県と鹿児島県については風評被害により2割減少している。特に、湯布院、雲仙、指宿等は5割以上の落ち込み
  • 災害時にはいかに正確な情報を伝えるかが重要となるが、その際にはSNSが最も有効なツールとなった。・熊本震災後、すぐに官民協同のPJチームを結成。PJチームの活動において最も役立ったのがSNSである。Facebook等のSNSを用いて、市長自ら会議議事録の発信(決定事項の公開)やその他情報発信を行った
  • 観光の復興のためには、ターゲット別に情報発信の順番や情報発信経路を考えることが有効である。観光客の回復は早い順に、オンライン、個人客、海外団体客。市場毎に適切なタイミングを図りコミュニケーションやプロモーションを推進していくことが肝要
  • 同じメディアに対しても、状況によって消費者の受け止め方は異なる。通常時にはメディアに対し懐疑的な人でも、災害時にはメディアの情報を待ち、信頼することもしばしばである。そのため、場面ごとに「誰が」「どのような情報」を発信するかが重要となる
  • 2016.07.29河野まゆ子 JTB総合研究所 主席研究員

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