去る10月17日~18日にかけて、新型コロナウイルスの感染拡大で延期されていた東京 浅草の「三社祭」が開催された。三社祭は毎年5月中旬に行われる、東京都台東区の浅草神社の例大祭で、芸者衆による大行列や神輿の担ぎ出しが初夏の風物詩であったが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で延期されていた。17日と18日に実施されたお祭りは規模を縮小し、感染防止の観点から、装飾した御用車と呼ばれるトラックに乗せられて神輿が通っていく。そのルートや時間は公表されず、参加する氏子も100人ほどに絞られた。
お祭りは、人が密集することが華でもあり、カタルシスであるものの、より安全に感染対策を講じた上で、どのようにそのハレの日を迎えるかについて、各神社は検討を進めている。
毎年11月になると関東地方を中心に、全国の神社やお寺で酉の市が開催され、熊手などの縁起物を求める人が集う。令和2年の酉の市の日程は11/2(月)/14(土)/26(木)の三の酉。鷲神社の公式サイトでは、トップページに「今年の酉の市 注意事項(新型コロナウィルス感染拡大に伴う対応)」を目立つように掲示し、検討経緯や対応の変更をリアルタイムで発信し、参拝者に対する注意を呼び掛けている。
対策が特に徹底されていると思われる点は「人数の規制」についてだ。参列を申込・抽選制にするとともに、境内人数をコントロールし、一方通行を徹底することで、健康チェックが済んでいない参列者が別ルートから紛れ込むことを防ぐことが可能だ。
【主な対策】
- 「宵宮祭」「当日祭」の申込受付は抽選制とし、参列の可否を決定し、参列者を絞る
- 申し込みにあたっては予め健康チェックシートへの記入と「接触確認アプリ」COCOAのダウンロードが必要とされ、当日入場時に確認
- 特別祈願の1回あたり人数の限定(20名)
- 境内人数を1時間あたり1,000人に制限
- 境内入口を神社正面一カ所の一方通行とし検温を実施
- 当日 37.5度以上の発熱者、マスク非着用者の入場を禁止
(参考:鷲神社ウェブサイト)
今後、神社において特に「密」が生じる可能性が高いのが、初詣だろう。特に有名神社においては、並んでから参拝まで2時間待ちということも多く、参拝者のコントロールは各神社にとって大きな課題だ。
企業参拝と一般参拝、崇敬会の参拝が混在し、元日~1月5日頃まで車道の交通規制を行うのが恒例となっている神田明神に、初詣の対策について聞いた。
Q.企業参拝の申し込み状況は、例年と比べてどうか。これまでと対応に変化はあるか。
A.本日(10月20日)から受付を開始した。例年と比べて正式参拝が減少している印象はない。1団体あたりのグループ人数を従来の三分の一程度まで減らすとともに、拝殿に上がる人を企業代表者に絞り、間隔をとれるようにする。
可能な限りの密を避けるため、参拝時間は例年よりも1時間ほど伸ばし、分散化を図る。
また、通常であれば玉串(榊)を奉納し、参拝後にお神酒を頂く流れがあるが、接触感染リスクを減らすため、玉串は代理として神職が奉納し、お神酒を授けることは中止した。
Q,初詣が元旦から4、5日くらいまでに集中する。これを分散させることは可能か。
A.本来、「節分までは正月」という意味合いなので、初詣は年始に急いでお参りに来ずともよいものであるが、人の気持ちとして、年始早々にある程度集中することは致し方ない。昨今は、「年末に1年の感謝を伝えるためにお参りをしよう」という動きも徐々に浸透してきており、年末への分散化も図っていきたいところである。
Q.お守り授与所など、購買により接触感染リスクがあるところへの対応は。
A.お守りやお札を現場で選ぶことによって、人の滞留が起きることから、これを避けなくてはならないと考えた。既に、「オンライン授与所」を10月1日に開設し、来社できない方のためにお守りを郵送するサービスを開始している。この仕組みを応用し、予めウェブサイトを通じて予約・決済し、初詣当日に手渡しをするだけにすれば、滞留時間と接触回数を大幅に減らすことができ、安全につながる。現金の収受も接触感染リスクにつながり得ることから、初穂料のクレジット決済導入も計画している。
Q.職員の感染対策は。
A.例年、正月時期には巫女アルバイトを100名規模で雇用し、自分で装束を着用できない人に対して着付けを行っているが、着付けは一斉に行うため、密集かつ密接な環境を生む。これを避けるため、2021年の元旦に向けては、自ら着用できる簡易的な白衣に変更した。
正月時期については、職員も総出の対応となり、参拝者との動線分離や、参拝者が触れる場所の消毒などを徹底し、感染防止に努める。
Q.その他、元旦までの間に進めていこうとしている対策について。
A.神社本庁は、初詣を前に、境内での新型コロナウイルス感染防止のためのガイドラインをまとめた。当社でも、神社と物販施設の双方において、マニュアルやガイドラインを早期に策定したい。
また、参拝者自身が、事前に混雑状況を知ることができる仕組みを整えたいと考えており、神門の上にリアルタイムカメラを設置し、スマートフォンから境内・参道の様子を確認できるようにしたい。参拝者の方々が年初めに安心して参拝ができるよう、これらの各種対策を講じているということについて、ウェブサイトを通じて周知を図っていくことも不可欠であると考えている。
検温の徹底や、入場人数の制限といった基本的な対策を講ずることは、民間施設であっても宗教施設であっても、共通のスタンダードになっていくことが想定される。とはいえ、「信仰」というつながりで神さまに会いに来た人々に対して、「入場制限のため今日はもう入れません」と伝えることを、躊躇する気持ちも非常によく理解できる。
筆者も、お祭りの混雑の中に埋もれて、ハレの日の賑わいを体感すること自体が「厄落とし」になりそう、という感覚を持つものであるし、賽銭箱にお金を入れた際の重たい音を聞いて、「神さまに気持ちが届いたかな」と感じることもある。初詣の意義やうきうきした気分はそのままに、ゆるく長く期間が分散され、参拝スタイルが多様化していくのに合わせ、ルーティーンとしてのお参りやお祭りにおける「定番の型」が柔軟に変化していく過程にあると言えよう。